【薬局M&A】M&Aの流れ(第2回)~ステップ4~6:買い手への打診から条件交渉・基本合意まで~

前回(第1回)では、M&Aを進める上での準備段階――
「1.目的の整理」「2.仲介会社への相談」「3.企業価値の算定・案件概要書の作成」について解説しました。

今回は、いよいよ実際の交渉段階に進むステップ4~6
すなわち「買い手候補への打診」から「基本合意書の締結」までを詳しく見ていきましょう。

ステップ4:買い手候補への打診

――最適な相手を見つけるプロセス

企業価値の算定とノンネームシート・案件概要書の作成が終わったら、
次は買い手候補への打診(タッピング)を行います。

この段階では、仲介会社が中心となって「売り手の条件」と「買い手の希望条件」を照らし合わせ、
最も適した相手をリストアップ(ロングリスト作成)していきます。

■ 買い手候補の主なタイプ

  • 調剤薬局チェーン(同業)
    • 既に薬局運営のノウハウがあり、店舗展開・規模拡大を企図しています。売り手薬局は「同じ業界だから」交渉がスムーズ、買い手にも理解があるというメリットがあります
  • ドラッグストアチェーン
    • ドラッグストアが薬局を取り込むことで「市販薬+調剤」の一体化を狙うケースがあります
  • 医薬品卸・商社
    • 商流の上流から下流までを抑えてビジネスモデルを拡大したい卸・商社が薬局M&Aを手掛けている例があります
  • 投資ファンド・異業種参入企業
    • 投資ファンドやコンサルティングファームが薬局を複数M&A(ロールアップ)して、ファンドやコンサルのノウハウを活用した効率化や事業拡大を図るケースもあります

■ 打診の進め方

  1. 仲介会社が打診先候補をリストアップ(ロングリスト作成)し、売り手と認識合わせ
  2. 仲介会社がノンネームシートを買い手候補に提示
  3. 買い手が関心を持てば、秘密保持契約(NDA)を締結
  4. NDA締結後に、案件概要書(IM)を開示

💬 ワンポイント:
この段階では、「誰に、どこまで情報を開示するか」が重要です。
仲介会社を通じて段階的に進めることで、情報漏洩のリスクを最小限に抑えられます。

ステップ5:買い手候補とのQ&A・面談・条件交渉

――信頼関係を築きながら、双方の意向を確認

NDAを締結し、案件概要書を開示した買い手候補とはQ&Aのやり取りが始まります。
一般的には、仲介会社が用意するExcelフォーマットなどのQ&Aシートに買い手候補が質問事項を書き込み、売り手が質問に対する回答を書き込むといったやり取りがされます。必要に応じて追加資料の開示なども行われます。
ただし、この時点ではあまりに詳細に入り込んだ質問や経営ノウハウに通じるデータの開示などについては「デューデリジェンスに進んだ際に開示します」といった形で売り手が回答を拒否することも往々にしてあります。売り手としては、まだ買い手としての確度が高くない相手に過剰な情報開示をすることのリスクが高いためです。

Q&Aを経て特に関心度の高い買い手候補が絞り込まれ、売り手としても交渉相手として適していると判断した場合には、直接の面談(トップ面談)を行います。
これは、経営者同士が直接顔を合わせ、お互いの考え方を確かめ合う大切な機会です。

■ トップ面談の目的

  • 経営理念・方針が合うかどうかを確認
  • 買収後の運営方針や雇用・店舗継続の方針を共有
  • 価格やそれ以外の「譲れない条件」をすり合わせ

この面談は、単なる価格交渉の場ではありません。
むしろ、“信頼できる相手にバトンを渡せるか”を見極める時間といえます。

💬 ワンポイント:
ここで誠実に答えることが、後の信頼関係構築につながります。
一方、過剰に情報を開示しすぎると交渉上の不利になることも。
仲介会社が同席してバランスを取るのが一般的です。

■ 条件交渉のポイント

面談を重ねる中で、次のような条件を整理・調整していきます。

  • 譲渡価格(株式・事業の評価額)
  • 従業員の雇用継続条件
  • 店舗名・ブランドの存続
  • 引き継ぎ期間・代表者の退任時期

このフェーズでは、「数字」だけでなく「想いの共有」が大切です。
買い手候補も、地域密着の薬局をどう活かすかを真剣に考えています。

ステップ6:意向表明書(LOI)の取得・基本合意書(MOU)の締結

――本格交渉に進むための“合意の証”

条件面で双方がある程度折り合ったら、次に進むのが「意向表明書(LOI)」「基本合意書(MOU)」の段階です。

■ 意向表明書(Letter of Intent:LOI)とは

買い手が「この条件で買収を検討したい」という意思を文書で表明したものです。
主な内容は以下の通りです。

  • 想定される譲渡価格のレンジ
  • 買収スキーム(株式譲渡・事業譲渡など)
  • 雇用継続などのその他条件
  • 買収後の経営方針
  • デューデリジェンス実施の予定
  • 基本合意までのスケジュール

LOIはまだ“法的拘束力のない提案書”ですが、
これを受け取ることで、売り手は「本気の買い手候補」を絞り込めるようになります。

■ 基本合意書(Memorandum of Understanding:MOU)とは

意向表明書を踏まえて、正式に交渉条件を整理した文書です。
ここでは、主要条件の合意に加え、「独占交渉権」が設定されることが多いのが特徴です。

基本合意書に含まれる主な項目:

  • 譲渡価格・スキーム・雇用継続などのその他条件
  • 主要スケジュール
  • 独占交渉期間(他社と交渉しない約束)
  • デューデリジェンス実施の範囲
  • 成約に向けた前提条件

ここで初めて、買い手が詳細調査(デューデリジェンス)に入ることができます。
つまり、M&Aの「仮契約」的な位置づけです。

まとめ:信頼と情報管理が成功のカギ

ステップ4~6は、具体的な情報開示や条件交渉が進む段階であり、“信頼関係”、”慎重な情報管理”、”明確な合意”が同時に必要となる難しいフェーズです。

  • 仲介会社を通じた慎重な打診
  • 誠実な情報開示とコミュニケーション
  • 意向・条件の丁寧なすり合わせ

この3つを意識して進めることで、買い手との関係がスムーズに築かれ、
その後のフェーズや成約後の統合(PMI)もうまく進みやすくなります。

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