【薬局M&A】M&Aの流れ(第4回)~ステップ8~9:最終契約締結から譲渡実行まで~

前回(第3回)は、デューデリジェンスについて解説しました。
買い手が薬局の実態を確認し、リスクや価値の妥当性を検証する重要な段階でした。
今回は、その先にあるステップ8「最終契約締結」と、実務の山場であるステップ9「譲渡実行」を詳しく見ていきます。
いずれも、薬局M&Aの“成功”に直結する非常に重要なフェーズです。
目次
ステップ8:最終契約締結(SPA:株式譲渡契約/APA:事業譲渡契約)
――M&Aが正式に成立する瞬間
デューデリジェンスが完了し、双方が合意できる条件が固まったら、最終契約(株式譲渡契約書/事業譲渡契約)を締結します。
ここが、M&Aの「正式な成立」を決める瞬間です。
■ 最終契約で定める主な内容
最終契約書では、以下の重要項目が明確に定められます。
- 譲渡対象(株式・事業・資産の範囲)
- 譲渡価格(最終金額)と支払い方法
- 表明保証(Warranty)
- クロージング条件(譲渡実行の前提条件)
- 譲渡実行後の義務
薬局M&Aでは特に、
- 保険薬局指定
- 薬機法・薬局開設許可の引き継ぎ
- 薬剤師の雇用継続
- 店舗運営に必要な届出類
など、業界特有の項目が多く盛り込まれます。
■ 表明保証とは?
売り手が「財務内容は正確」「法令違反はない」など、
一定の事実を保証する条項です。
もし後で誤りが見つかれば、
買い手が損害賠償を請求できる仕組みです。
→ 薬局M&Aでは、レセプト請求や在庫評価の正確性がよく問題になります。
■ クロージング条件とは?
最終契約を結んでも、“すぐに所有権が移る”わけではありません。
一定の「条件」を満たして初めて譲渡実行(クロージング)となります。
例:
- 社内手続きの完了
- 行政手続きの完了
- 従業員の勤務継続確認
- 取引先の取引継続確認
- 必要資料の準備完了
- 在庫の確定数値の提出
この条件をクリアするために、最終契約から譲渡実行日までに、売り手・買い手・仲介会社が協力して準備を進めます。
ステップ9:譲渡実行(クロージング)
――実際に“薬局が移転する日”
「譲渡実行」とは、最終契約で定めた条件が満たされ、
実際に株式や事業が買い手へ移転する日のことです。
M&Aのクライマックスといえる瞬間です。
■ 譲渡実行日に行われる主な作業
① 譲渡代金の支払い
買い手が、最終契約で決めた譲渡価格を売り手に支払います。
通常は銀行振込で行い、支払い完了の確認をもって所有権が移ります。
② 株式・事業の受け渡し
株式譲渡の場合:
- 株券の引き渡し(株券がある場合)
- 株主名簿の書き換え
- 法務局での役員変更登記(必要に応じて)
事業譲渡の場合:
- 在庫の引き渡し
- 備品・什器の引き渡し
- 契約関係の移管(賃貸契約・リース契約など)
③ 従業員の雇用移管
薬局では特に重要です。
- 雇用契約の締結(事業譲渡の場合)
- 従業員説明会の実施(後日改めて実施するケースも)
従業員が安心して働ける環境を整えることが、
買収後の運営(PMI)を成功させる鍵となります。
④ 保険薬局指定の手続き(事業譲渡の場合)
薬局M&Aで最も注意が必要な業務のひとつです。事業譲渡の場合、各許認可の再取得が必要となるのです。
- 保険薬局指定の新規申請または変更届
- 薬局開設許可の変更届
- 管理薬剤師の変更手続き
- オンライン資格確認・電子薬歴の設定変更
行政手続きが正しく行われないと、保険請求ができない期間が発生し、
売上に影響することがあります。
⑤ 在庫の確定(クロージング在庫)
医薬品在庫はM&A金額に直結するため、
譲渡日当日もしくは直前に棚卸しを行います。
■ (必要に応じて)譲渡実行後に起こる変化
- 薬局名の変更(または現状維持)
- POS・レセコン・電子薬歴の切り替え
- 仕入れルートや卸の変更
- 買い手グループのマニュアル導入
買い手の運営方針によっては、
店舗のオペレーションが大きく変わる場合もあります。
まとめ:最終契約と譲渡実行は、M&Aの“核心部分”
ステップ8〜9は、薬局M&Aの中でもとくに専門性が高く、
細かな調整と正確な手続きが求められるフェーズです。
- 最終契約は M&Aの正式成立を決める重要文書
- 譲渡実行(クロージング)は実際の引き渡しの日
- 保険薬局指定や行政手続きなど、薬局特有の作業が多い(事業譲渡の場合特に)
- 従業員説明・オペレーション引き継ぎなど現場対応も必須
仲介会社・専門家と連携しながら進めることで、
トラブルのないスムーズな譲渡が実現できます。
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